昨日とある著名ベンチャーキャピタリストのSNSへの投稿を期に、いろいろと思いを巡らせた。
その投稿は「来たる冬に兵糧の備えを」というもの。

すなわち今後必ず訪れるであろう経済低迷期や金融危機に備え、しっかりと筋肉質な会社にしておくべきだというメッセージ。

詳細は省くが、私自身この投稿にはすごく共感することが多かった。


2009年以降の10年間、特にこの5年間はベンチャー企業にとっては極めて環境に恵まれた期間であろう。日本においてもベンチャー支援環境が整ってきたことに加えて、世界的に景気が好調で、あらゆる産業のIT化により豊富なビジネスチャンスが存在し、さらにはエンジェルや企業、VCによる積極的な投資が行われ、いわゆるベンチャーマネーが豊富な状況が今もなお続いている。

私自身世界各国のGDPとベンチャーマネーの割合からみても、決してこの状況がベンチャーバブルだとは思わないが、若い起業家が経営の基本を捉え違いしてしまうことについては極めて危険だと感じている。

今更だが経営の基本は、やはりキャッシュフローをしっかりと黒字化すべく努力をすることだと思う。
毎月の入出金のコントロールはもちろんのこと、戦略的投資と単なる構造的な赤字をしっかりと見極めることができなければ、経営は成り立たない。

そもそも会社とは関わる人々が幸せになるために作られた仕組みであり、社員や顧客や株主の幸せはもちろんのこと、社会や人類に貢献できるまでになれば、まさに一流。そういう意味でもしっかりと利益を生み出すことやそれを適切に分配・投資をすることこそ、経営という仕事の基本であり、戦略的投資によるもの以外の赤字経営は、会社という公器の運営状況としては極めて不健全といわざるを得ない。

一方で、一部のユニコーンベンチャーや、赤字のままバイアウトに成功し大金を得た起業家の存在によって、赤字経営への恐怖心や不安感が薄まり、それどころかどちらかといえば優秀な起業家は赤字を恐れずにスケールを狙うみたいな風潮が蔓延しつつある気さえしている。もちろん全ての赤字が悪いわけではなく、戦略的な赤字であれば、それを理解する投資家や潤沢な資金さえあればもちろん問題はない。ただそれさえも経済環境が変われば、手のひらを返したように投資判断が変わることは理解しておく必要はある。

そして何よりも自分達の赤字が戦略的投資による赤字なのか、事業構造的な赤字なのかは、しっかりと理解しておかないと大変なことになりかねない。表面だけユニコーンを真似ても、いつか来るであろう経済危機の波によって、すぐに身動きが取れなくなってしまうであろう企業は決して少なくないだろう。

小さなことだが、どれだけ成功していても、どれだけ評価をされていても、浪費は徹底的に控え、入出金のサイトコントロールも決して緩めず、常に先を見据え継続した努力と改善を重ねることが、会社経営の基本の基本だと、私は考えている。

新卒で入社した会社で若くして子会社の社長を任せていただき、26歳にして必死になって資金繰りを意識して経営をした経験、28歳で起業して資金調達をしたもののリーマンショックで風向きが変わり、多数の銀行に頭を下げに行っても融資が受けられなかった経験、月末の入金を元手に翌日1日遅れで請求書に対する支払いをすることでなんとか生き延びてきた経験など、多くの修羅場を経験してきたからこそ得られた実感値である。

今では、日々多くの若手起業家からの相談を受けるが、上記のような経験談を含めたアドバイスをさせてもらうと、みな驚くだけで自分ごととしては今ひとつピンとこないのが正直なところだと思う。しかし決して対岸の火事ではない。

若い起業家のみんなには、潤沢な資金や環境が整っているうちに、事業も組織もしっかりと筋肉質にしておくことを強くおすすめしたい。

久しぶりのエントリーがおじさんの説教的な内容で大変恐縮だが、44歳で18年間失敗だからけの経営経験に基づくものと思って許してもらいたい。