最近新卒採用時の年俸が急騰している。
市場の原理なので仕方ない面はあろうが、個人的には経営者には教育者としての役割も多少なりあるという視点から考えて、あまり極端な年俸政策による人材獲得競争には賛成していない。

もちろんそれだけの力がある人に相応の給与を払うというのはプロの市場であれば問題ない。

それはプロの世界であれば、野球でもサッカーでもよくある話。
しかし野球やサッカーのプロの世界は、下方硬直性は限りなくゼロで、市場価値と見合わなければ極端に言えば戦力外通告と隣り合わせでさえある。


ちょっと話を変えよう。

若い人の中にも転職や就職に際して入社当時の給与条件を事細かに気にする人が多い。
もちろん給与は大事なファクターだとは思うが、20代のうちの年俸の50万、100万がその人の人生にどれだけの影響があるのだろうか。

プロサッカーに言い換えるとわかりやすい。
インテルで経験できるが年俸300万円と、Jリーグで年俸1000万円なら、20代のプロサッカー選手であれば誰もが迷わずインテルを選ぶだろう。

それは自分の実力や経験を上げることでしか生き残っていけない世界であり、短期的な年俸よりも、その年俸に見合う市場価値を身につけることこそが、安定であることを知っている。

ビジネスの世界ではいまだに終身雇用的な感覚が大企業を中心に残っているために、今一つこのあたりの考え方が徹底されていない。

数千人以上の転職支援をしてきて、数百人のマネジメントをしてきた私の経験則や知見から思うのは、20代、30代において重視すべきは、経済的対価よりも、その元となる経験や実力や人脈を得られる道を選択するべきだと思う。

20代や30代で経験や実力の成長が限界を迎えてしまうと、残った40代、50代、60代という長いビジネス人生は、若い時にほんとちょっと積み上げた経験を武器に飯を食って行くという何とも不安な人生を歩むことになる。

もちろん上記は極端な話で、経済的対価を優先したところで、経験を積んだり実力を磨くことができなくなるわけではない。

しかしやはりとにかく実力を磨こうと思って様々な判断をしてきた人と、経済的対価を優先させて様々な判断をしてきた人では、残念ながら40歳近くなってくると大きなキャリアアセットの差が出てしまう。

20代の年間100万や200万という経済的格差とは到底違い、40歳のそれとなると年間1000万円というレベルでの差が発生することさえある。

改めて若い人には、まずは何よりも経験や実力や人脈を得ることを最優先した選択、決断を薦めたい。
私はそれらを総称してキャリアアセットと言っているが、まずはキャリアアセットを積み重ねることが大事だと思っている。

そして積み上げたキャリアアセットはほっておいても次第に富を産み出していくもの。
若い時は貧乏でもいいじゃないか、とは言わないが、焦りすぎて将来の選択肢を狭めないようにしてもらいたい。


最後に私が極めて共感する名言を。


ビジネスの世界はすべて二種類のコインで支払われる。
すなわち、現金と経験だ。
まず経験を取ること。現金は後でついてくる。

        ハロルド・S・ジェニーン(AT&T元会長)