今年に入ってから、働き方改革、ホラクラシー型組織、ティール型組織、エンゲージメント経営などの文脈から、多くの講演や取材の依頼を頂戴するようになった。また若い起業家や経営者の方々からの相談も多く、少しでも役に立てるのであればということで、時間の許す限りお会いするようにしている。


そんな中でよく聞かれるのは、どうやったら社員がエンゲージメント高く、意欲をもって働いてくれるのか、というような類のこと。

それに対して必ず聞き返すのは、

「●●さんは本当に社員の物心両面の幸せを実現しようと思ってますか?」

ということ。


もちろん組織改善のためのティップスや常套手段、効果的な取り組みなどは多々あるものの、大前提として経営者としての意志や意欲、情熱がそこになければ、いくら小手先のティップスを実践しても残念ながら長続きもしなければ、改善さえままならずに終わるだろう。

組織改善において大切なのは、制度やルールなどハードの改善よりも、社員の心理や意欲や人間関係といったソフトの改善から始めること。何よりも経営陣が本気で社員の物心両面の幸福を実現しようと思えば、社員との対話や問題点の把握からスタートする以外にないことは容易にわかるだろう。しかしながら多くのケースでは、残業時間削減や、フレックス制度の導入など、ハードの改善によってエンゲージメントを改善しようとしている。残念ながらそれは土台間違っている。


そもそも会社とは何か。
平成の30年間、日本は安易に米国から時価総額経営や目標管理制度など、一見資本主義においては合理的に見える経営スタイルを模倣しすぎてしまったように思える。

私は会社というものは、関わる人々が幸せになるために人間が知恵を絞って作り出した仕組みだと思っている。

関わる人々というのは、狭義には、働く人々、クライアントやユーザーなど顧客、そして株主だろう。実際には地域社会やパートナー企業などを含めた広義の関わる人々を幸せにするのが会社の主たる目的だと考えている。


経営のバリューサイクルとは、以下のようなものだと考える。


働く人々の物心両面の幸福の実現
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サービスやプロダクトによる顧客への価値提供
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顧客からの対価による売上・利益の向上
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株主価値の向上
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納税・雇用・パトロネージュによる社会貢献
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働く人々がより一層誇りをもち働きがいを感じる


経営とはこのバリューサイクルを適切に回すことであり、そのサイクルをとおして幸せにできる人の数が多ければ多いほど、優れた経営ができているということなのではないだろうか。時に赤字の状態でも会社を売却して成功を納めたとされる起業家も数多くいるだろうが、それは投資家や株主として成功したということであり、上記サイクルを適切にまわし、社員の幸せ、顧客の幸せ、社会への貢献が実現できていないようであれば、経営者としての成功とは言えないのではないかと思う。もちろん株主や投資家としての成功であることには疑いの余地はないので、だからといってそれが悪いことだと言いたいのではないが。

個人的には最近、日本を含め、米国や中国などの資本主義が少し行き過ぎているような印象すら抱いている。会社が時価総額や売上の成長を追求し続けることのためだけに存在しているかのような感覚を持っている経営者も多いのではないだろうか。もちろん関わる多くの人々を幸せにするために、売上や株価というのは大事な要素の一つであるのは間違いない。そこに異論は一切ないが、それが唯一最大の目的でないというのも事実ではないかと思う。

成功している会社はもっと社会全体への貢献や富の還元を意識していくことで、社会がサステナブルにまわっていく存在であるべきではないだろうか。

そういう意味でも、アトラエは行き過ぎた資本主義に迎合して株主価値や売上を向上させ続けるだけではなく、関わる人々を幸せにすることを第一義と、さらには地域社会や日本全体にも微力ながら貢献できる存在になるべく、チーム全員で力を合わせていく。

いつの時代も原理原則本質論こそが大事であり、経営者やリーダーたる人は決してその本質からぶれてはならない。